データセットの出版について


 近年、気候変動が海洋生態系へ及ぼす影響について議論されることが多くなってきました.マイワシやカタクチイワシのように25 年から50年の長期にわたる資源変動を示す魚種や、スルメイカのように気候のレジームシフトにより短期に資源変動を示す水産資源 の存在も示唆されています.このように、気候変動の海洋生態系への応答メカニズムを明らかにするには、長期にわたる海洋生物、 および海洋環境データが必要不可欠です.このような趨勢にも関わらず、我が国における上記データセットの整備状況は不十分であ ることから、これまでに蓄積されてきたデータの早急な整備が必要となっていました.北海道大学では、1957年から継続的に海洋調 査、および資源漁業操業を実施しており(冊子「海洋調査漁業試験要報No.1〜No.45」、以下「要報」と略記)、世界的にもその重要 性、貴重さにこの要報に注目が集まっています.今回刊行されるデータセットは、多くの研究者による利用を念頭に置き、日本海洋 データセンター(JODC)の全面的な協力のもと、約50年(半世紀)にわたり北海道大学で収集された長期海洋生物・海洋環境データ セットのディジタル化を行ったものです.本データセットが、地球環境変動による生物資源変動の解明、あるいは生物資源の持続可 能性へ言及できる貴重なデータセットであると確信しています.刊行にあたり、日本海洋データセンターの関係者に謝意を述べると ともに、現在作業中である資源漁業操業データセット(HUFO-DAT, Vol.2)の発刊に向けてより一層の努力を継続する決意です。

平成17年3月

北海道大学大学院水産科学研究科・水産学部
研究科長・学部長 山内 皓平


 日本海洋データセンター(JODC : Japan Oceanographic Data Center)は、 海洋観測機関等で得られた海洋観測データを提供いただき、整理・保管するとともに公表して二次的な利用に供する、総合的な海洋 データバンクとして活動しています。また、国際的には、我が国を代表する責任国立海洋データセンターとして、ユネスコ政府間海 洋学委員会(IOC)の国際海洋データ交換(IODE)活動の一翼を担っています。
 さて、昔に観測されたデータの中には、報告書などの文献にしか記載されていないものや、資料庫などに積み残されたままになって いるものもあり、時とともに貴重な観測資料が散逸・喪失し、二度と利用できなくなる危機が迫っています。そこで、IOC/IODEでは、 「海洋観測データ発掘救済プロジェクト(GODAR: Global Oceanographic Data Archeology & Rescue Project)」を企画し、過去の貴 重な海洋データを発掘し、データベース化を図っています。JODCは、西太平洋地域の事務局としてプロジェクトに参画し、埋もれた 海洋観測データの発掘救済を推進しています。
 この度、北海道大学におかれては、このJODC並びにGODAR活動の趣旨を理解され、 「海洋調査漁業試験要報Vol.1(昭和32年) 〜45(平成13年)」の冊子で報告されていた長期間で多量のデータを提供され、公開することが可能となりました。このデータの デジタル化が完了し、共同で、この「北大長期水産海洋情報データベース(HUFO-DAT)Vol.1」を刊行する運びとなりました。このデ ータは、他の観測データとともに海洋の長期変動や地球環境変動などの解明に役立つものと期待されます。
刊行にあたり、ご協力いただいた北海道大学大学院水産科学研究科・水産学部の関係者に感謝するとともに、 今後とも貴重な海洋観測データの発掘救済、有効活用への協力をお願いいたします。

平成17年3月

日本海洋データセンター
所長 小田巻 実